受給者の寿命を考慮した、公的年金の繰り上げ受給・繰り下げ受給額の損益分岐点

受給者の寿命を考慮して計算した背景

公的年金の繰り上げ受給・繰り下げ受給の損益分岐点の記事を多く見かけますが、全ての記事が繰り上げまたは繰り下げをした場合の公的年金の受取総額を、65歳から受給した場合と単純に比較したものです。
損益分岐点は、繰り上げ受給の場合、繰り上げ受給の受取総額(累積額)が65歳から受け取った場合の受取総額を下回る年齢。繰り下げ受給の場合、繰り下げ受給の受取総額が65歳から受け取った場合の受取総額を上回る年齢です。

しかし自分の寿命は予測できません。そして例えば70歳まで繰り下げたけれど70歳前に死んでしまえば年金は1円も受け取れません。令和4年簡易生命表(男)を使って計算すると、65歳から70歳までに6.3%も亡くなります。
寿命が予測できないのですから、損益分岐点を知っても何も検討できませんね。

年が経つにしたがい年金を受給する生存者数は減っていきます。この生存者の減少(いわゆる寿命)を考慮して年金を計算すれば、何かが見えてくるかもしれない。これが計算を進めた背景です。

計算を進めていくと、この計算結果は年金機構の年金支給総額であることが分かり、繰り上げ・繰り下げ受給のカラクリが見えました。おすすめの繰り上げ・繰り下げ受給開始年齢も検討しました。ぜひ最後までご覧ください。

目次

公的年金の、一般的な繰り上げ受給・繰り下げ受給額の損益分岐点

まず一般的な、繰り上げ受給・繰り下げ受給額の損益分岐点の表を紹介します。(令和2年改正の受給率に)


年金受給
開始年齢
受給率年金額面
(65歳で180万円)
額面ベース
損益分岐点
(65歳と比較)
繰り上げ受給60歳76%136.8万円80歳10か月
61歳80.8%145.4万円81歳10か月
62歳85.6%154.1万円82歳10か月
63歳90.4%162.7万円83歳10か月
64歳95.2%171.4万円84歳10か月
65歳100%180.0万円
繰り下げ受給66歳108.4%195.1万円77歳11か月
67歳116.8%210.2万円78歳11か月
68歳125.2%225.4万円79歳11か月
69歳133.6%240.5万円80歳11か月
70歳142.0%255.6万円81歳11か月
71歳150.4%270.7万円82歳11か月
72歳158.8%285.8万円83歳11か月
73歳167.2%301.0万円84歳11か月
74歳175.6%316.1万円85歳11か月
75歳184.0%331.2万円86歳11か月

5年繰り上げて60歳から受給を開始すると80歳11か月まではお得、それを過ぎると損。
5年繰り下げて70歳から受給を開始すると81歳11か月までは損、それを過ぎるとお得。
10年繰り下げて75歳から受給を開始すると86歳11か月までは損、それを過ぎるとお得。

そして、日本人の平均寿命は男性が81歳1か月、女性が87歳1か月。

一見理解して、お得になる年金受給開始年齢を選択できそうに見えますが、自分がいつまで生きるか分からないですからどう考えればいいことやら。。。
税金とか加給年金とか、本当の手取り額には色々と影響するものがありますからさらに複雑です。

損得よりも受給するタイミングの方が重要な気がします。
60歳でお金が必要(生活費や投資など)ならば年金を繰り上げて受給すればいいと思います。本当に必要ならば躊躇する必要はないと思います。
繰り下げを考えている人は、年金なんかもらわなくても生活に困らないのでしょうから、自由に判断すればいいと思います。

年金機構の年金支給総額の損益分岐点とは

年金機構の年金支給総額の損益分岐点

次の条件で年金機構の年金支給総額の損益分岐点を計算しました。
・寿命に関しては、現時点で最新の「令和4年簡易生命表」を使用して男女別に計算。
・全ての受給者が特定の年齢で受給開始するとして年金機構の年金支給総額を計算。
・65歳で受給開始した場合の年金機構の年金支給総額と、特定の年齢で受給開始した場合の年金機構の年金支給総額の損益分岐点を計算。
・さらに結果の判断材料として、損益分岐点での生存率を計算。

年金機構の年金支給総額の損益分岐点を、受給者の寿命を考慮した公的年金受給額の損益分岐点と考えてよい理由

年金機構の年金支給総額が多いということは、受給者は多くの年金を受給しているということに間違いありません。
ですので、年金機構の年金支給総額の損益分岐点を、受給者の寿命を考慮した公的年金受給額の損益分岐点と見ていいのです。

特定の年齢で受給開始した場合の年金機構の年金支給総額が、65歳で受給開始した場合の年金機構の年金支給総額を上回っている期間は、年金機構の支払いが多いのですから受給者が得をしていると考えられます。

特定の年齢で受給開始した場合の年金機構の年金支給総額が、65歳で受給開始した場合の年金機構の年金支給総額を下回っている期間は、年金機構の支払いが少ないのですから受給者は損をしていると考えられます。

すなわち、年金機構の年金支給総額の損益分岐点は、繰り上げ受給・繰り下げ受給検討の一助になるのです。

年金機構の年金支給総額の損益分岐点計算

60歳で繰り上げ受給開始の場合

年金受給
開始年齢
性別年金機構の年金支給総額の
損益分岐点
(65歳受給開始と比較)
損益分岐点での
受給者の生存率
60歳83歳6か月51.4%
81歳0か月79.2%

令和4年簡易生命表は男女で分かれていますから、年金機構の年金支給総額の損益分岐点も男女で分かれます。
損益分岐点での生存率が50%程度ならば年金機構から見てバランスが取れていると考えられますので、これで計算結果を読むことにします。

繰り上げ受給の場合、「損益分岐点での受給者の生存率が50%を下回っていれば受給者が得をする可能性がある」と読みます
繰り下げ受給の場合、「損益分岐点での受給者の生存率が50%を上回っていれば受給者が得をする可能性がある」と読みます。

60歳で繰り上げ受給開始の場合、
男性はをする可能性がわずかにあります。
女性はをする可能性がかなりあります。

61歳で繰り上げ受給開始の場合

年金受給
開始年齢
性別年金機構の年金支給総額の
損益分岐点
(65歳受給開始と比較)
損益分岐点での
受給者の生存率
61歳85歳4か月44.3%
82歳3か月76.6%

61歳で繰り上げ受給開始の場合、
男性はをする可能性が少しあります。
女性はをする可能性がかなりあります。

62歳で繰り上げ受給開始の場合

年金受給
開始年齢
性別年金機構の年金支給総額の
損益分岐点
(65歳受給開始と比較)
損益分岐点での
受給者の生存率
62歳87歳8か月35.2%
83歳6か月73.6%

62歳で繰り上げ受給開始の場合、
男性はをする可能性があります。
女性はをする可能性がかなりあります。

63歳で繰り上げ受給開始の場合

年金受給
開始年齢
性別年金機構の年金支給総額の
損益分岐点
(65歳受給開始と比較)
損益分岐点での
受給者の生存率
63歳90歳9か月22.3%
84歳9か月69.9%

63歳で繰り上げ受給開始の場合、
男性はをする可能性がかなりあります。
女性はをする可能性があります。

64歳で繰り上げ受給開始の場合

年金受給
開始年齢
性別年金機構の年金支給総額の
損益分岐点
(65歳受給開始と比較)
損益分岐点での
受給者の生存率
64歳なし
86歳2か月65.4%

64歳で繰り上げ受給開始の場合、男性では年金機構の年金支給総額の損益分岐点は現れません。令和4年簡易生命表の上限の105歳を超えるところにあるので計算できないのです。ですので、64歳で年金受給を開始すれば得する可能性が非常に高いと考えていいと思います。
不思議に思い、令和2年改正以前の64歳の繰り上げ受給率94%で計算すると、年金機構の年金支給総額の損益分岐点は82歳9か月(生存率54.1%)と計算できますので、受給率変更で無理が生じたと思われます。

64歳で繰り上げ受給開始の場合、
男性はをする可能性が非常に高いです。
女性はをする可能性があります。

66歳で繰り下げ受給開始の場合

年金受給
開始年齢
性別年金機構の年金支給総額の
損益分岐点
(65歳受給開始と比較)
損益分岐点での
受給者の生存率
66歳78歳4か月67.3%
77歳5か月85.0%

66歳で繰り下げ受給開始の場合、
男性はをする可能性があります。
女性はをする可能性がすごくあります。

67歳で繰り下げ受給開始の場合

年金受給
開始年齢
性別年金機構の年金支給総額の
損益分岐点
(65歳受給開始と比較)
損益分岐点での
受給者の生存率
67歳79歳8か月63.8%
78歳6か月83.5%

67歳で繰り下げ受給開始の場合、
男性はをする可能性があります。
女性はをする可能性がすごくあります。

68歳で繰り下げ受給開始の場合

年金受給
開始年齢
性別年金機構の年金支給総額の
損益分岐点
(65歳受給開始と比較)
損益分岐点での
受給者の生存率
68歳81歳0か月59.8%
79歳7か月81.8%

68歳で繰り下げ受給開始の場合、
男性はをする可能性が少しあります。
女性はをする可能性がすごくあります。

69歳で繰り下げ受給開始の場合

年金受給
開始年齢
性別年金機構の年金支給総額の
損益分岐点
(65歳受給開始と比較)
損益分岐点での
受給者の生存率
69歳82歳5か月55.1%
80歳9か月79.7%

69歳で繰り下げ受給開始の場合、
男性はをする可能性が少しあります。
女性はをする可能性がかなりあります。

70歳で繰り下げ受給開始の場合

年金受給
開始年齢
性別年金機構の年金支給総額の
損益分岐点
(65歳受給開始と比較)
損益分岐点での
受給者の生存率
70歳84歳1か月49.2%
81歳11か月77.3%

70歳で繰り下げ受給開始の場合、
男性はをする可能性が少しあります。
女性はをする可能性がかなりあります。

71歳で繰り下げ受給開始の場合

年金受給
開始年齢
性別年金機構の年金支給総額の
損益分岐点
(65歳受給開始と比較)
損益分岐点での
受給者の生存率
71歳85歳9か月42.9%
83歳1か月74.6%

71歳で繰り下げ受給開始の場合、
男性はをする可能性が少しあります。
女性はをする可能性がかなりあります。

72歳で繰り下げ受給開始の場合

年金受給
開始年齢
性別年金機構の年金支給総額の
損益分岐点
(65歳受給開始と比較)
損益分岐点での
受給者の生存率
72歳87歳9か月34.5%
84歳4か月71.2%

72歳で繰り下げ受給開始の場合、
男性はをする可能性が少しあります。
女性はをする可能性がかなりあります。

73歳で繰り下げ受給開始の場合

年金受給
開始年齢
性別年金機構の年金支給総額の
損益分岐点
(65歳受給開始と比較)
損益分岐点での
受給者の生存率
73歳90歳6か月23.4%
85歳7か月67.2%

73歳で繰り下げ受給開始の場合、
男性はをする可能性がかなりあります。
女性はをする可能性があります。

74歳で繰り下げ受給開始の場合

年金受給
開始年齢
性別年金機構の年金支給総額の
損益分岐点
(65歳受給開始と比較)
損益分岐点での
受給者の生存率
74歳96歳4か月5.7%
86歳11か月62.5%

74歳で繰り下げ受給開始の場合、
男性はをする可能性がすごくあります。
女性はをする可能性があります。

75歳で繰り下げ受給開始の場合

年金受給
開始年齢
性別年金機構の年金支給総額の
損益分岐点
(65歳受給開始と比較)
損益分岐点での
受給者の生存率
75歳なし
88歳5か月56.6%


75歳で繰り下げ受給開始の場合は、64歳で繰り上げ受給開始の場合と同様に、男性では年金機構の年金支給総額の損益分岐点は現れません。75歳で年金受給を開始すれば損する可能性が非常に高いと考えていいと思います。

繰り下げ受給で年金機構の年金支給総額の損益分岐点が出ないということは、年金機構の年金支給総額は通常の65歳受給開始より必ず少ないことになります。国民の全男性が75歳受給開始を選択すれば、年金機構の年金支出総額はかなり減少します。「年金機構の年金支出総額」=「受給者の年金総額」です。つまり受給者の年金受給総額はかなり減少するということです。
男性の70歳以上の繰り下げ年金受給開始は、年金機構の願いかもしれませんね。

75歳で繰り下げ受給開始の場合、
男性はをする可能性が非常にあります。
女性はをする可能性が少しあります。

受給者の寿命を考慮した公的年金受給額の損益分岐点のまとめ

繰り上げ受給の場合

男性の場合

男性の場合は女性より寿命が短いため、繰り上げ受給はほとんどになる可能性があります。ただし60歳受給開始の場合はをする可能性がわずかにあります。
特に64歳で繰り上げ受給すればになる可能性が非常に高いです。

女性の場合

女性は寿命が長いため、繰り上げ受給はをする可能性があります。

繰り下げ受給の場合

男性の場合

66歳から69歳までに受給開始する繰り下げ受給では、をする可能性があります。
70歳から74歳までに受給開始する繰り下げ受給では、をする可能性があります。
75歳で受給開始する繰り下げ受給では、をする可能性が非常に高いです。

女性の場合

66歳から75歳まで、何歳で繰り下げ受給開始しても、をする可能性があります。

受給者の寿命を考慮した、おすすめの繰り上げ・繰り下げ受給開始年齢

寿命を考慮したおすすめの年金受給開始年齢を検討しました。前述しましたとおり、税金とか加給年金とか、本当の手取り額には色々と影響するものがありますし、お金が必要なら繰り上げすべきですので、ご検討の材料とされて下さい。

男性の場合

繰り上げの場合、61歳から64歳で受給開始するとをする可能性があります。
64歳の受給開始をする可能性が非常に高いのでおすすめです。

繰り下げの場合、66歳から69歳で受給開始するとをする可能性があります。
70歳から75歳で受給開始するとをする可能性がありますのでおすすめしません。
年金をもらう必要がないほど財力があり健康に自信があるならば繰り下げを検討されてもよろしいかと思います。ただし繰り下げ期間は加給年金がカットされますので、加給年金を受け取れる場合は十分に検討されてください。
各年金受給開始年齢の、男性の生存率が約50%となる84歳までの年金機構の年金支給総額割合を下表に示します。
男性の生存率が約50%となる84歳までの年金機構の年金支給総額割合は年金受給開始年齢67歳で最大となりますので、67歳の受給開始をおすすめします。

年金受給
開始年齢
男性の生存率が約50%となる84歳までの
年金機構の年金支給総額割合
(年金受給開始年齢が67歳の年金支給総額を100%とする)
6699.14%
67100.00%
6899.96%
6999.05%
7097.17%
7194.74%
7291.40%
7387.32%
7482.55%
7577.12%

女性の場合

繰り上げの場合、どの年齢で受給開始してもをする可能性がありますので、繰り上げ受給はおすすめしません。

繰り下げの場合、どの年齢で受給開始してもをする可能性があります。
年金をもらう必要がないほど財力があり健康に自信があるならば繰り下げを検討されてもよろしいかと思いますが、大きく繰り下げするのはおすすめしません。さらに繰り下げ期間は加給年金がカットされますので、加給年金を受け取れる場合は十分に検討されてください。
各年金受給開始年齢の、女性の生存率が約50%となる90歳までの年金機構の年金支給総額割合を下表に示します。
女性の生存率が約50%となる90歳までの年金機構の年金支給総額割合は年金受給開始年齢70歳で最大となりますので、70歳の受給開始をおすすめします。

年金受給
開始年齢
女性の生存率が約50%となる90歳までの
年金機構の年金支給総額割合
(年金受給開始年齢が70歳の年金支給総額を100%とする)
66歳93.89%
67歳96.41%
68歳98.27%
69歳99.48%
70歳100.00%
71歳99.97%
72歳99.27%
73歳97.96%
74歳96.05%
75歳93.56%

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